イタリアで音楽留学〜どこで学ぶ?〜
芸大を卒業する年度の夏にイタリアに初めて行った事から私のイタリアに対する関心は高まりました。
イタリアに留学をして、どの様に音楽を学んできたか、イタリアの留学でどの様な可能性があるかをこの記事では書いていきます。
音楽院・アカデミー
音楽留学の場合、イタリアだと国立音楽院(conservatorio)に通う場合が多いです。
理由としては規模がそれなりに大きい事、音楽院の学生証をビザ・滞在許可証の申請時に提出すればほぼ確実に発行が出来るという書類上の理由もあります。
その他、アカデミーによっては滞在許可証の発行に有効な学生証の発行をしてくれます。
EU外の若い音楽家で就労の滞在許可証を作るまでの条件が揃ってはいかないけれどイタリアで活動したい人はアカデミーに在籍して学生の滞在許可証を手に入れて合法的に滞在している人も見受けられます。
1.トリノ国立音楽院
トリノ国立音楽院、正式名はconservatorio statale di musica "Giuseppe Verdi" di Torinoです。
私はまず最初に留学先としてこの音楽院を選びました。
音楽院では
- 3年コース(triennio)/第1レベル(1°livello)
- 2年コース(biennio)/第2レベル(2°livello)
この二つのコースがあり、イタリア文化会館で行われた留学の説明会では三年コースが日本の大学と同等で扱われています。
しかし年数も違い、日本とシステムが違うので果たして2年コースが日本の大学院と同等の学位かというとイタリアの場合2年コースもlaurea(大学卒業レベル)扱いなので、laurea の中で 二つの異なるレベルが存在するという扱いだと思います。
私の場合日本で大学を卒業しているので音楽院では2年コースから始めました。
音楽院は他にも小さい子達や3年コースを受ける前の予備科(pre-accademico) や、卒業生だけれどまだレッスンを受けたいという人の為の単一科(corso singolo) 等もあります。
毎年コース(特に予備科や小さい子の為のコース) のシステムも変わるのでややこしいです。
日本の時に学んできた藝大の様に規模の大きい学校ではない事と、レベルに関して言えば音楽院の先生に習っていればほぼ入学出来るので期待はしない方がいいです。
私の経験してきた事を言えば、せっかくの留学生活を音楽院だけで勉強するのは物足りないと思います。
音楽院にいるメリットとしては
- 音楽院は演奏会を多く行っていて演奏の機会を貰える
- 学費が高くないこと
- 滞在許可証が確実に取れる
- 卒業後、滞在許可証を就労にする場合イタリアでの学位があるので有利
私は音楽院で良い先生に出会えた事もあり、充実したレッスンを受ける事が出来ました。
2.ピネロロ音楽アカデミー
トリノから少し離れたピネロロという街は、電車もしくはバスで約1時間の所にあります。
ピネロロ音楽アカデミー(accademia di musica di Pinerolo) はトリノ音楽院の学生に奨学生制度を実施しており、私もその奨学生でした。
どの様な制度か簡単に説明すると、オーディションで合格したトリノ音楽院の学生はピネロロ音楽アカデミーでのレッスンを無料で受けられるというものです。
このアカデミーは基本専門の楽器のレッスンのみで、音楽院の様にソルフェージュや室内楽等の専門楽器のレッスン以外のレッスンはありません。
年度が変わる毎に習いたい先生のクラスの登録をし、年間のレッスン回数に応じた授業料を払います。
レッスンのある時にアカデミーに通うだけでいいので他の学校と掛け持ちで通うことが可能です。
ヴァイオリンのクラスには有名な先生がいるので遠くから習いに来る生徒もいます。
トリノからさほど遠くない事、レッスンだけという手軽さかつ質の高いレッスンを受けられる為現在もピネロロのアカデミーには在籍しています。
また、今年度からは大学院、修士の学位が取れる第3レベル(3°livello specializzazione)のコースが音楽の学位としてはイタリアで初めて始まりました。
また第3レベルの事は別の記事で説明したいと思います。
3.クレモナ・スタウッファーアカデミー
クレモナはストラディヴァリやグァルネリ等の最高峰と言われる弦楽器製作者のいた街です。
クレモナには弦楽器奏者の学生に限定し、全ての生徒に無料でレッスンを受けれるアカデミーがあります。
クレモナ・スタウッファーアカデミー(Accademia Walter Stauffer Cremona) といい、講師陣にはパガニーニコンクールで優勝し、イタリアのヴァイオリン界の権威とも言えるサルヴァトーレ・アッカルド氏もいます。
弦楽器それぞれに一人ずつ講師がいて、室内楽(弦楽器で構成されたグループ) のクラスが一つあります。
私はアッカルドクラスにいました。毎年多くのプロを目指す学生が受けにきます。
レッスンは無料ですが全生徒月に1回のみです。
なのでピネロロと同様スタウッファーの学生は他の学校で勉強しながらアカデミーに通っている事が殆どです。
最もこのアカデミーが生徒のレベルとしても高いと思います。
一流を極めた先生の元で無料でレッスンが受けれる事に加え、同世代の上手な子がどんな演奏をするのか知れる機会でもあるのでイタリアにいるなら行かない選択肢はないくらいです。
短期講習
主に長期休みに行われる事が多い講習会。
日本だと一週間の講習会でも参加費だけで10万円を超える事はザラです。
イタリアでは一週間ほどの講習会(約4回の個人レッスンの場合)だと400€、つまり5万円程度です。
イタリアは学校の授業料も安いですし、金銭面でこうした講習会も日本よりも良心的なので受けやすいです。
イタリアに来てからは少ないながらもいくつか参加したものを簡単に紹介していきたいと思います。
1.シエナ・キジアーナ音楽院マスタークラス
先ほどご紹介したクレモナ・スタウッファーの講師であるサルヴァトーレ・アッカルド氏が講師陣の一人という事で参加しました。
元々ピネロロアカデミーで習ったいた先生にアッカルド氏の元に行ってみたらどうかと言われた事もあり、この歴史ある講習会での参加が私にとって初めてのアッカルド氏のレッスンでした。
キジアーナ音楽院の夏期講習会は様々な楽器のコースがあるので全体で見ると長期で講習会が行われています。
また、レベルが高く世界中から受講生が集まるので日本人の方で参加している人はほぼ毎年います。
近年では事前に受講希望者は演奏の録画を提出をして受講が出来るかどうかわかりますが、以前は実際にシエナまで行って初日にオーディションを行い受講生と聴講生に分けられるというシステムでした。
私は現地でオーディションを受けて無事受講生となりましたが、わざわざ遠くから来て2、3週間もの間一回もレッスンを受けれず聴講生で終わってし舞うのは流石に辛いだろうと思うと事前の審査の方が安心出来ます。
講習会費は2~3週間ありましたが480€だったと思います。
講習会が行われるシエナは夏の間パリオという競馬のイベントが行われます。このイベントの為のパレードが日々行われ、朝から太鼓の音がシエナの街に響きます。
シエナという街自体が独特な街で素敵なのでレッスンを受けながらイタリアの文化に触れながら貴重な時間を過ごせると思います。
2.バルドネッキア夏期講習会
トリノから電車で一時間40分程のピエモンテ州の端にあるバルドネッキアという街は、夏でも気温15度を下回ることも常日頃なとても涼しい場所です。
バルドネッキア夏期講習会(Musica d`estate a Bardonecchia)は、ピネロロ音楽アカデミーが運営している夏期講習会で、講師陣もピネロロのアカデミーの先生がほとんどです。
トリノは冬季オリンピックが行われた街だから涼しいというイメージがもしかしたらあるかもしれませんが、夏は物凄く暑いです。
去年は40度を超える日もあったので日本と暑さは変わりません。
しかしそのトリノから外れて山の方へ行けばとても涼しいです。
バルドネッキアはスキー場としても有名で、冬季オリンピックの会場としても使われ、モニュメントも残っています。
同じピエモンテにいながら全く違う国にいるような雰囲気の街です。
建物が木を基調としたものが多く、温かみを感じる街並みです。
講習会費は280€に登録料が95€(ヴァイオリンの場合)です。
一つのコースにつき日数はそこまで多くないですが、空気の綺麗な街で落ち着いて音楽に集中する期間として過ごすにはなかなか良い場所です。
最後に
その他にもプライベートで通った先生や、オーケストラアカデミーでもソロや室内楽のレッスンを受けることもありました。
それぞれの学校や講習会に行くたびに自分の出来ない事や足りない事に気づかされて落ち込んだり打ちのめされていましたが、そうして私に沢山の技術とアイディアを教えてくれた先生方がいたから私の留学生活が充実したと思えるものになったのだと思います。
勉強してきて思う事は、成長したければ自分から積極的に動くという事です。
私の場合は普段行動できる無理のない範囲はトリノのあるピエモンテ州内とお隣のロンバルディア州だと思っていたのでその中で出来る選択肢をとにかく増やすために情報を集めました。
情報の集め方は至って簡単で
- 音楽院やホールにあるパンフレットは片っ端から一部ずつ貰う
- ネットでヒットしそうなキーワードで検索する
- マスタークラスやオーディション等が掲載されている情報サイトを毎日チェックする
- 専科の先生は勿論、室内楽等の先生やオケの団員の人から話を聞く
- 演奏会に行って出演者に会えるなら会って話してみる
この辺の事をしていました。
単純に演奏会に足を運び続けるだけでもそこで何かしら出会いがあったり、パンフレットやプロブラム、その他広告等を通じで何か知ることが出来る可能性があるのでお勧めです。
情報は集めたものの、結局通わなかったアカデミーやコースなどはもちろんありますので、またそのうち参考程度に別の記事にリストアップしておこうと思います。