ヴァイオリンの基礎の教本~初心者もプロも皆学ぶこと~
何事にも必ず基礎はつきもので、ヴァイオリンもその例外に漏れず、基礎を学ばなければ良い音は出せません。
ではヴァイオリン弾きはどの様な教本、教材を使って演奏技術を学ぶのでしょうか?
世界中には様々な基礎を学べる本があり、先生のレッスン方針によって勿論使い方も千差万別です。
あくまで私の勉強してきたものですが、ご紹介していきたいと思います。
セヴシック
ヴァイオリン初心者からプロまであらゆるレベルの人がセヴシックを使っていると思います。
セヴシックは1852年に生まれたチェコのヴァイオリニストです。
セヴシックが出した基礎練習の本は多くあり、最も教本のOp.1-1が初心者にも扱いやすく、最も使われていると思います。
私もヴァイオリンを始めて1年くらいした頃からOp1-1は必ず毎日の練習の一番始めに練習していました。
Op(数字)-(数字)というよう本の順番があり、学ぶ内容によって本が分かれています。
運弓の基礎、ポジションチェンジの基礎、ダブルストップの基礎など、一つの技術にフォーカスを当てて、到底全てを練習するには不可能な程の数の練習のヴァリエーションが一冊の本にまとめられています。
私は過去に左手を骨折したことがあり、その時に左手を使わずに練習ができるセヴシックを使ってヴァイオリンを弾く感覚を忘れないようにしていました。
今でも時々使っている右手の練習としてのセヴシックの本はOp2-5です。
音楽高校時代、この本を当時習っていた先生に使うよう言われ、そこから弾かなければいけない曲で弓の技術の問題で上手くいかない時はこの本を取り出して基礎に戻ります。
様々なヴァリエーションがあるので今の自分に合った練習のヴァリエーションを取り出して練習することで効率よく基礎に戻ることが出来ます。
シュラディック
シュラディックも先程の項目で説明したセヴシック同様スタンダードな基礎の教本です。
セヴシックより少し難しいので、中級レベルくらいから使うと効果的だと思います。
オケのリハーサルに行くと大体リハーサルの始まる前に誰かしらこのシュラディックの一番最初のヴァリエーションを練習している音が大抵聞こえます。
プロになっても練習の始まりにこの本のヴァリエーションを一通り弾いて指慣らしする人が多いです。
特に最初のNo.1のヴァリエーションが主に左手の指慣らしには最適で、私は毎日の練習の初めにこの本のNo.1とNo.2を一通り弾きます。
カール・フレッシュ
音階と言えばカール・フレッシュの音階システム。
この本をなしにヴァイオリンの基礎は語れないと言っても過言ではないでしょう。
難易度が高いので上級者向けですが、プロを目指す人、プロならば多くの人がこの音階で勉強していると思います。
音大の入試で音階が行われる場合も大抵カールフレッシュを採用しています。
私も芸大の入試でこのスケールを弾かなければいけなかったので入試前は毎日音階の為に2時間費やしました。
音階だけの本ですが、分厚さはまるで指揮者の交響曲のスコアの様に分厚いです。
普通の単音のスケールに加え、3度、6度、8度、フィンガードオクターブ、10度、ハーモニックの重音音階もあり、非常に難しいものの、この一冊をしっかり学べばどんな調の曲でも自由に弾けるようになります。
しかし、果たしてこの本をまともに勉強し、しっかり弾ける人が世の中にどれだけいるのだろうかという程特に重音の音階は複雑で長いです。
始めてこの音階で練習を始めた頃はこんな重音の音階を誰が弾くんだと気が遠くなる思いで、たった1小節練習するにも物凄く時間が掛かって苦労したことを覚えています。
今も尚必ずシュラディックの後に毎日調を変えて(異名同調を飛ばした全24調を1日ずつなので一周するのに約1か月掛かります)その調の全ての項目を練習しています。
もう一つのカール・フレッシュ
カール・フレッシュというと音階は先程書いた通り有名です。
そのカール・フレッシュはもう一つ、基礎練習の本を残しています。
それがUrstudienと呼ばれる本です。
この教本は音階とは違い、本としては非常に薄いですが内容は非常に良く出来ていて濃厚です。
一つの項目に対して何分の練習時間かも書かれており、この本全ての項目を一通りざっと弾いても20分~30分程度で終わります。
指を広げたり弦を跨いだ移弦の練習等、体の柔軟性を必要とする練習が多く、初めてこの本で練習した時は指が引きつりました。
柔軟体操をした時の様な、体を伸ばされる感覚がしてこの本の練習時はきついのですが一通り弾いた後に曲を弾くと体が自由に感じます。
マイアー・バンク
日本ではこの本はあまり知られていないかもしれませんが、マイアー・バンクという基礎の教本は世界中で使われています。
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の初演を行った名ヴァイオリニストでロシア式の演奏法の教育者としてハイフェッツやミルシュテイン等、20世紀の大スターを育てた名指導者でもある、レオポルド・アウアーの教育法に基づいて作られた教本です。
この本は初心者向けの教本で、デュオになっている練習が多くあるのでレッスンで先生と一緒に弾きながら勉強することが出来ます。
多くのメソードでは一人で弾く事で効率よくヴァイオリンを勉強することが出来ますが、アンサンブルの耳を初期の頃から鍛えられるメリットがあると思います。
また、弓の使い方、配分等に関してこの本は特に丁寧に書かれているので初心者の方で右手に自信がない、悩みがある人はこの本を参考に練習してみるのも手かもしれません。
最後に
様々な教材がありますが、どんな問題を抱えているかを自分で理解し、その問題の解決を最短で出来る事を手助けするのが今回紹介した本の役割だと思っています。
メソードや本はそれぞれ特徴はありますし、レッスンを受けている方なら先生に勧められた基礎の教本を使うのが妥当な道です。
しかし、何を使ったとしても使い方次第です。
基礎の教材をなかなかじっくりと練習するのは面倒な事と思う事もあると思います。
けれどもし、じっくりと時間をかけて基礎を練習出来ればもっと自由にヴァイオリンが弾けるようになると思います。