FACCIAMO LA MUSICA

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音大受験の話~東京芸術大学編~

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東京芸術大学奏楽堂内

東京芸術大学は音楽、美術の道を選ぶ人達にとっては憧れの場所かもしれません。

 

とにかく受験が厳しく、毎年多くの受験生が受けては一握りの人が合格する狭き門です。

 

もう10年近く前に受験したので記憶が定かでない事や現在の情報と異なる事があると思いますが、私が東京芸大を受験した時の話を書いていきたいと思います。

 

 

 

東京芸術大学器楽科

藝大(東京芸術大学を書く時は実際は東京藝術大学と書くのが本当の書き方だそうです)の器楽科はピアノ、弦楽器、管楽器、打楽器、古楽全て含めて器楽科の括りで、定員は約100名とされています。

 

 

その中でヴァイオリンは私の時だと20数名の合格者で、毎年ヴァイオリンは20名前後の合格者が出ています。

 

最近は受験者数が減っているそうなので合格者の数も以前より減っているとは聞いていますが、レベル自体は以前と変わらないのではないかと思います。

 

芸大はレベルが落ちた、藝大生はそんなに上手じゃないと言われる事もありますが、それでも全体のレベルは高い事には変わりません。

ヴァイオリンに限らずですが、毎年藝大の学生の中から国内外の主要なコンクールで優勝、入賞を果たしているのでやはりそこは藝大のレベルの高さを示しているのではないでしょうか。

 

 

受験生になるまでの受験に関する行動

元からコンクールで賞を沢山取って実力がある子、音大レベルの先生にずっと習ってきて欠かさずきちんと練習した子なら受験生になるまで藝大受験を意識せずともギリギリになって受験を決めても合格出来る可能性はあります。

 

しかし実際はそんなに甘くもありません。

 

コンクールで実績もあり、藝大の先生にも習ってきたのに落とされてしまう事もあります。

 

受験は何が起こるかわかりません。

出来る事を出来る限りで頑張る事が合格の道で、それ以外はズルも近道も出来ないと思います。

 

受験をすると決めた時

藝大生の中には両親が音楽家で小さい頃から英才教育を受けて育った子や、藝大に入る事を幼い頃から目標に頑張ってきた人もいます。

 

そんな人達と同じ土俵で戦うのですから、付け焼刃は通用しません。

 

 

私自身はそこまで早く決めた訳ではなかったのですが、近所にいた同じ青少年オーケストラで一緒だった先輩が藝大に入った事や、通っていた音楽学校が他にも合格者を出していた事で藝大には憧れを抱いていました。

 

実際に藝大を受けると決めたのは中学3年生の時に全日本学生音楽コンクールの地方大会で入賞したくらいでした。

 

入賞したと言っても運もあっただろうしコンクールの実績もそれまではほとんどなく、曲も沢山こなした訳でもなかったので道のりは険しい事には変わりありませんでした。

 

受験を決めてからの行動

私は高校を卒業するまで名古屋に住んでいたので、東京まで定期的にレッスンに通うのはかなりきついのでそれは受験前だけにする予定でした。

 

同じ門下でレッスンが前後だった子がとても上手で、(後に学生音コンで全国1位を取るのですが)彼女は小学生ながらすでに藝大の先生に習っていると聞きました。

本人の努力も凄まじいのですが、より高いレベルの先生に定期的に習う事でランクアップしているのだと思いました。

 

その子のお母さんから藝大で教えている先生が月に一度名古屋に来るので生徒の枠が空いていればレッスンを受けられると聞き、すぐさま申し込みに行きました。

 

そして高校1年に上がってすぐに藝大の先生に習う事となりました。

 

高校に上がって

高校1年生に上がってすぐに藝大の先生に習う事になり、そこから藝大を卒業するまでその先生にお世話になりました。

 

初めてのレッスンで先生が弾いた音に、とにかく感動しました。流石藝大の先生です。

特に音の質に関する事はこの先生から多く学ぶ事になりました。

 

高校の時にどの様に行動したか順を追って書いていきます。

 

高校1、2年の時

音楽高校では学校で週一回音高の先生のレッスンがあるのでそこで主に基礎の積み上げをし、月に一度藝大の先生に主に音楽の内容についてレッスンしてもらっていました。

 

音高では定期的に試験もあるので試験の曲を見て貰ったり、コンクールの課題曲をレッスンしてもらったりしていました。

 

藝大を受験するとは言っても大抵多くの音大受験生は実力を上げる為、人前で弾く事に慣れる為などの理由でコンクールを受けます。

 

1,2年の時はとにかく試験やコンクール等目の前の目標をこなす事を考えて練習していました。

その努力が受験に結び付くと信じてほんの少しだけ藝大を意識はしていました。

 

 

学校での生活もあること、私の家の場合、音が出せる時間が夜9時までだった事もあり実際練習できるのは平日だと3時間程度でした。

 

授業が終わって友達とファミレスやゲームセンター、ショッピングモールに行ったりしている子も勿論いましたが、私は学校が午前中で終わる時くらいしか友達と学校の後にどこかで遊ぶ事はほぼしませんでした。

 

それでも決してガツガツとしていた訳でもなく、文化祭などの行事で遅くまで残ったりもしてそれなりに楽しく学校で過ごしていました。

 

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ヴァイオリン以外の受験で必要なもの

藝大の入試では1次、2次試験はヴァイオリンの演奏だけで結果が決まります。

しかし最終の3次試験はセンターの結果、ソルフェージュ音楽理論、副科ピアノ等のヴァイオリンの演奏とは違う試験が行われ、その他の試験と演奏の総合点で結果が決まります。

 

まずは演奏が良くなければ3次に進むことは出来ないのは当然の話ですが、3次の試験の点数はどれくらい総合点の割合に含まれるかこれは藝大の先生もほとんど知らないそうなのであまり気はぬけられません。

 

私の通っていた音楽高校では藝大を目指す子が毎年いるので、ソルフェージュや副科ピアノ、音楽理論等の先生は傾向と対策に慣れており、勉強の環境としてはとても良かったです。

 

入試は独特なので藝大入試の傾向と対策を知っている先生の元にソルフェージュ音楽理論は習った方が良いです。

 

音楽理論、ピアノは比較的好きだったので成績も悪くなかったのですが、ソルフェージュ、それも新曲視唱が特に私は苦手でした。

学校の授業に加え、個人でレッスンにも行って自分なりに頑張ったつもりですが結局受験が終わってもソルフェージュは苦手なままでした。

 

成績もクラスで真ん中あたりだったので、藝大を目指す同じクラスの子はほぼ皆ソルフェージュも成績上位だったのでコンプレックスでした。

 

 

勉強に関してはお恥ずかしながらそこまで良くはありませんでした。

中学時代はかなり勉強を頑張って、塾も通い、進学校受験クラスにいたのですが高校以降勉強は音楽関係の勉強はしていたものの他の一般科目はそこまで時間をかけて勉強していませんでした。

 

楽家は海外で演奏したり海外から来る演奏家と演奏する事もあるので特に英語はしっかり勉強しておくべきだったと思います。

 

一応試験前は勉強して赤点を取る事は一度もなかったのですが、そのレベルです。

 

藝大ではセンターの国語と英語の2科目のみの結果を考慮しますが、受験とは関係ない日本史、世界史が得意でした。

 

 

 

 

受験生になってから

受験を勿論皆が意識するのですが、それでも学校行事は手を抜かずにやりました。

 

特に土日は一日中練習する日が多く、藝大の先生のレッスンは名古屋での月一回に加えて東京まで行くこともありました。

 

受験生になってから特に変わった事は、音階の練習量を増やした事です。

 

ヴァイオリンの試験の場合、1次試験の一番最初でカールフレッシュの音階を弾かされます。

そこで第一印象が決まるので音階はきちんとさらわなければいけないと高校の先生にも厳しく指導されました。

 

入試で音階を弾かせるなんて悪魔の様だとは思っていましたが、最終的に音階を練習せざるを得ない状況で音階を練習した事は基礎を身につけるうえでとても役に立ったと思います。

 

新学期~夏休み

私の通っていた音高では夏前の実技試験で秋の定期演奏会で演奏できる人が選抜される仕組みでした。

特に3年生はこの結果で受験へのモチベーションも変わってくるので皆必死でした。

 

試験曲はヴァイオリンの場合任意の協奏曲だったと思います。

チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の1楽章を試験の曲に選んだのですが、私はこの曲とは相性が良くなかったみたいで、試験のギリギリまでボロボロな演奏でした。

 

試験後に先生には、レッスンの直前に酷かった部分がとても良くなっていたからどうしたのかと聞かれ、私は出来ない部分をリズム練習や変え弓をしたりしてひたすら100回練習したと答えました。

 

以降しばらくこの話を先生は引き合いに出して他の生徒に話して、弾けなければ弾けるまで諦めないで練習しなさいと言ったそうです。(笑)

 

 

試験の結果としては定期演奏会に選抜はされたものの、決して良い結果とは言えるものではなかったのでまだまだ藝大には程遠い状態でした。

 

 

モチベーションを上げるためにもコンクールを受けるつもりでそちらの方も準備を始めました。

 

夏休み

 夏休み中は毎日大体このような予定で過ごしていたともいます。

 

  • 朝8時 起床、朝食、身支度
  • 午前8時半 勉強
  • 午前9時半 練習 (途中休憩有)
  • 12時半 昼食
  • 午後2時 練習 (途中休憩有)
  • 午後7時 夕食
  • 午後8時 練習
  • 午後9時 入浴
  • 午後9時半 勉強・ピアノ練習
  • 午後11時半 就寝

 

ざっと書いているので見た感じ食事以外ほぼ練習しかしてない様に見えますが結構のんびりしていたと思います。

こんな感じの時間割の生活を、既に中学の時から休日で何も予定がない日はこの様に過ごしていたのでいつも通り夏休みを過ごしていたと言えます。

 

実際一日中練習しているように見えて、結局休憩や食事を入れると7時間程度しか練習していません。

 

本当にやばい、練習しないとと思う時は9時間くらい練習しますが、それ以上は練習出来ません。

10時間以上練習できるようになったのはイタリアに来てからなので大学時代ですら長時間練習する事に耐えられませんでした。

 

なので世の中の受験生は12時間以上勉強するという人もいるので凄いなと思います。

 

夏休み中に受けると決めたコンクールの予選があり、 その他に藝大の先生が講師をする講習会に参加し、それが唯一の夏休みの思い出です。

 

秋~受験課題曲発表

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 先程説明しましたが、秋には音高の定期演奏会があります。

定期演奏会は名古屋のしらかわホールという大変立派なホールで行われます。

 

造りがいいので響きも素晴らしく、ここでソロが弾ける事はとても貴重な経験です。

私はこの定期演奏会と、その直後に本選が行われるコンクールでバルトークのヴァイオリン協奏曲第二番の1楽章を弾きました。

 

この曲と相性が良かったのか、コンクールでも入賞が出来、藝大に入った後も先生に事あるごとにバルトーク弾いたら?と言われていました。

 

そして、コンクールが終わったとほぼ同時に受験の課題曲が発表となりました。

 

 

私の年は1次がカールフレッシュの音階変ロ長調、バッハの無伴奏ソナタ第一番のフーガで、2次がパガニーニのヴァイオリン協奏曲第一番の1楽章が課題でした。

 

曲によって向き不向きがあるとはいえ、実力のある子なら何を弾いても藝大に合格します。

自分と相性の悪かったチャイコフスキーの協奏曲は前年の課題だったのでないとは思いつつもチャイコフスキーは出ない事を少しだけ祈っていました。

 

 

結局課題は弾いたことのあるバッハのフーガ、高校1年生の時にパガニーニの協奏曲は学生音コンの全国大会で弾いたので運は良かったのかもしれません。

 

 

冬休み~センター試験

年明け前にもう一つ受けていたコンクールの本選があり、そのコンクールの参加者の高校3年生の多くは藝大の課題曲を弾いていました。

 

結果入賞する事が出来ましたが、受けて良かったのは藝大を受ける子達の演奏を聴くことが出来たことです。

 

夏以降からやっていたセンター過去問を解く事もしていましたがセンターの結果は英語が5割、国語が6割だったので音高や藝大の先生は「そうだったの」で片付けられましたが、普通科進学校に通っていた私の姉と比べられると酷いものです。

 

中にはセンター2割しか取れなくても藝大に合格した子の話は結構耳にしていたのでセンターがどれほど重要なのかはよくわかりませんが、今後を考えると勉強が出来て損する事はありません。

 

冬休み中も夏休みとほぼ変わらない時間割で過ごしていました。

センター前なので勉強時間を1、2時間くらい増やしましたが、正直生ぬるい勉強しかしてませんのでこの結果です。

 

 

センター試験後~1次試験

センター後は勉強の心配をしなくていいのでこの時が一番私にとっては幸せな日々でした。

 

1次試験直前に東京に入るまでは家でひたすら練習、時々レッスンに行くというかんじでした。

学校では卒業試験に加え(ほぼ全員入試の曲を卒試で弾きます)、音階の試験をしてくれたのですが、音階の試験の後に先生にはこのままじゃやばいよと厳しい事を言われました。

 

自分としては音階はそれなりにちゃんと弾けて、卒試で弾いたパガニーニはひどいと思っていたのですが、卒試に関してはそこまで先生にネガティブな事を言われなかったので自分の評価だけでは何とも言えません。

 

実際、入試でも自分の感覚ではすごくよく弾けたのに落とされた!なのにあの人は間違えたのに合格した!という話も聞きますが、自分が思う事と人が感じる事は違うので結果は結果だと受け止めるしかありません。

 

 

よく言われるのは藝大の入試はただ上手いだけでは合格できない。これから伸びしろがある、音楽的センスを感じる子が合格するだなんて話も聞きます。

 

とはいえ、先生は純粋にこの子の演奏が良いと思った子に高い得点を付けていると思います。

 

コンクールと違い、課題曲に音階もあり、センターやソルフェージュなどその他の科目も行われるのでコンクールと違う結果が出るのも仕方ないのかもしれません。

 

センター後は学校が終わるまで普通に通いながら時間が許される範囲で練習をしていました。

午前中のみ学校だったのでこの時は毎日5時間くらい練習していたと思います。

 

1次試験

1次の前日に東京に着いて、受験中過ごし、合格したらそのまま入居できる音大生向けの学生会館に入りました。

 

母が一緒に来てくれて受験を最初から最後まで支えてくれました。

 

ただ、1次の朝、練習していたら母が演奏に関して口出しをしてきて、母の言う事は正しい事でしたがそこで口論となり、私はもう藝大受けないと怒って家を出てそもまま1次試験を受ける事となりました。

 

1次の時はそんな事もあった割に私自身は落ち着いていた気がします。

私の前後の子が男の子で二人とも上手くてどうしようとは思いました(結局その二人も藝大に入学しています)が、演奏するときは意外とホールが暖かくて弾きやすかった記憶があります。

 

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2次試験

私の高校で藝大を受験している子はかなり多く、ヴァイオリンの場合は12人いる同級生のうち、半分は藝大を受験していました。

 

2次に残った音高のヴァイオリンのクラスメイトは3人でした。

 

1次の事もあり、母とこれからはポジティブに過ごそうと決め、2次で藝大の伴奏助手の素晴らしいピアニストと演奏できる事を楽しみに練習を続けました。

 

2次も自分の出来る演奏をしましたが、パガニーニの協奏曲の3分あたりで一瞬弾き直したか音を飛ばしてしまい、演奏が終わるまではその失敗を弾きずる事はなかったものの、終わった後は物凄く落ち込みました。

 

ショックすぎて大学を出た瞬間に高校の先生に電話をし、私が動揺していたのもあり、まだ気を落とさないでと励まされました。

 

2次の結果発表の時はそれとは関係なく美容院で髪を切っていたため発表予定時刻に遅刻しました。

先生は時間になっても連絡がないので私が落ちたのかと心配していたそうですが無事3次に進めました。

 

 

3次試験

高校の卒業式が2次か3次の前にあったのですが、名古屋に戻って卒業式に参加しなかったので3次が終わってから学校まで成績表と卒業証書を取りに行きました。

 

3次試験になると、もうヴァイオリンを弾く試験はないので高校の先生がくれた音楽理論ソルフェージュのの過去問や問題集を勉強したり、ピアノを練習していました。

 

高校のヴァイオリンの同級生は私ともう一人の子だけが残り、このままこの二人が合格しました。

 

ピアノでも相変わらず音階で弾き直しをしてしまったし、苦手なソルフェージュはそこそこ出来たと自分では思っていたけれど果たして出来ていたのか謎です。

 

 

 

最後に

ざっと受験で過ごしたことを簡単にまとめてみましたが、受験で合格するには日々の努力、これに限ると思います。

 

直前に沢山やっても、普段から計画を立てて勉強、練習している人を超すことは並大抵のことではありません。

 

実際私の先輩や後輩、同級生で藝大に合格した人たちはずっと努力し、それでも常に合格するかどうかの不安を抱えながら出来る事を全力で皆やってきています。

 

楽家にとって藝大は憧れの場所ですが、受験に合格出来なかったからといって音楽家としての道が絶たれる訳ではありません。

その後もずっと努力を続けて音楽家として成功している、充実している人も沢山います。

 

あくまで受験は人生の分岐点でしかなく、合格不合格よりも受験を通して自分が成長出来た事を実感し、それを次のステップアップに繋げていける事が最も重要な事なのではないのかと思います。

 

 

気になる事、質問等ございましたらお気軽にお問い合わせください。また、無料体験レッスンも受け付けております。

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