FACCIAMO LA MUSICA

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コンクールの話~リピツァー国際音楽コンクール~

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私自身、そこまで沢山コンクールを受けてきたタイプではないのですが、その中でも思い出深いコンクールの話の一つを紹介します。

 

3年ほど前に受けたリピツァー国際音楽コンクールは、準備期間からコンクールを通して様々な事を学べたという意味や今後の成長の為にも良い経験が出来たと思っています。

 

 

 

 

リピツァー国際音楽コンクール

イタリアの端っこにあるゴリツィアという街で毎年9月頃このコンクールは行われます。

 

スロベニアとイタリアの国境がすぐそこの小さな街で、コンクール参加者は買い物や食事をスロベニアの方で行う事も多かったです。

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ゴリツィアとスロベニアの国境

 

コンクール名のリピツァー(イタリア語発音だとリピツェル)という人はヴァイオリニストでヴァイオリンの指導者でもあり、このコンクールでは一次予選にリピツァーが監修した教本の中から課題が出されます。

 

その課題が何とも難しく、演奏不可能のギリギリをいく難しさです。

 

 

課題・要項発表

ほぼ毎年3月か4月頃に課題曲発表と要項がサイトの方で公開されます。

 

とはいっても毎年小さな変更はあるものの大体毎年似たような課題です。

 

一次予選

・バッハの指定された曲の組み合わせから1つ選んで演奏

モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3,4,5番から任意のもの(1楽章もしくは2,3楽章)

・指定のリピツァーのエチュード

・シヴォリのカプリスから任意の一曲

 

二次予選

・要項のソナタの一覧の中から任意の一曲

・要項のヴィルトゥオーゾピースの一覧の中から任意の一曲

・コンクールの為に書かれた新曲

パガニーニのカプリスから任意の一曲

 

本選

・要項のロマン派のヴァイオリン協奏曲の一覧から任意の一曲

・要項の20世紀のヴァイオリン協奏曲の一覧から任意の一曲

 

大体こんな感じです。

詳しくはサイトの方で確認出来るのでご興味ありましたらそちらをご覧になると良いと思います。

 

申し込みは全てオンラインで出来るので簡単です。

 

パガニーニ:24のカプリース

パガニーニ:24のカプリース

 

 

課題曲の練習

課題が多いのでそれをバランスよくこなす事がコンクールでは大きな課題となってきます。

 

これだけ課題の多いコンクールを受けた事がなかったので課題をこなすだけで大変でした。

国際コンクールを沢山受けている人達はそもそもレパートリーをいつも多く持っているので自然と勉強する曲が増え、それに伴い練習も多くなると思います。

 

自分の練習のモチベーションを保つ意味でこのコンクールを受けたのは本当に良かったと思います。

 

私は譜読みが遅いので参考にならないと思いますが、当時行った練習計画を簡単に書いていきます。

 

春から夏休み前まで

前回の記事で書きましたが、リピツァーを受けた年の2月に左手の骨折をし、4月の課題発表頃にようやくギプスが取れた状態でした。

 

violinoarco.hatenablog.com

 

なので数か月は筋肉の衰えと骨が修復しきっていない事から指が痛いと感じる事もありました。

 

コンクールの課題に加え、音楽院やその年通っていたトリノ王立劇場アカデミーの試験の曲等も練習しなければいけなかったのでとにかく遅れを取り戻す事が最初の目標でした。

 

コンクールの曲は新しく練習しなければいけない曲もある事、曲の量が多い事もあり、譜読みを何とか夏休み前に終わらせたかったのですが本選のプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲の3楽章は7月最初までかかりました。

 

5月中旬までは一次の課題を中心に練習し、6月中旬までは二次の曲を中心に練習、7月中旬まで本選の曲を中心に練習していましたがリピツァーは鬼門なのでこれだけは毎日必ず弾いていました。

 

音楽院は元から授業数が少ない事、6月末までには通常の授業が終わるので練習する時間はそれなりに取れましたが、これまで真面目に練習してこなかったので一曲をそれなりの形にするのにも非常に時間が掛かりました。

 

苦労した課題

一次の課題曲のバッハ、モーツァルトはよくある課題で弾いてきた曲とはいえ、丁寧に練習していく必要があり、残りのリピツァーとシヴォリは弾いた事ない上に美しく弾く事が非常に難しいです。

 

とくにリピツァーには苦労しました。

 

リピツァーの練習曲の課題は3曲で、3曲合わせても2分程度という非常に短いものですが、たったこれだけの為に毎日2時間は練習していました。

 

この一次の課題が私にとっては地獄のようでした。

 

他にも二次予選は40分から1時間程度のプログラム、本選の課題は2曲のコンチェルトととにかくこれを全て練習する事も大変でした。

 

夏休み

夏休みはとにかく練習をずっとしていました。

 

これほどまで沢山練習した夏休みはないくらい練習したと思います。

 

夏休みは音楽院に人がほとんどいないので毎日朝8時半に開くと同時に練習室に入り、閉まる16時半前に練習を終え、お昼ご飯の30分の休憩以外はずっと練習するようにしていました。

 

その後に家で2時間くらい練習という感じを毎日していました。

 

毎日9~10時間は練習していたのですが、コンクールを受ける人には当たり前の練習時間ですら私はヘトヘトになっていました。

 

 

講習会には二つ参加した事、音楽院の室内楽で一緒にやってきたピアニストが誘ってくれた演奏会に参加した事が唯一の夏休みの思い出でした。

 

ピアニストとのデュオリサイタルの曲はコンクールと関係ないレパートリーな上にブラームスプロコフィエフソナタとどちらもしっかり勉強しなければいけない曲だったので大変でしたが勉強する事が沢山あった事は良かったと思っています。

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コンクール

私はイタリアに既に住んでいるのでゴリツィアは日本から行くよりもずっと近くて安い旅費なものの、それでもトリノから電車で6時間くらい掛かりました。

 

コンクール側では必要な人には宿泊所と食券の提供、ビザが必要な国籍の人にビザの発行の為の証明書等を出してくれます。

 

一次の結果が出るまでは宿泊所や食券は有料(ホテルを取るよりもずっと安い料金)ですが、二次、本選へ残った人は期間中宿泊費や食券が無料になります。

 

 

とはいえ、宿泊所は教会の宿泊所で所謂青年の家みたいな感じの所で古くてトイレやシャワー室が共同です。

 

お金に余裕のある人たちはホテルを取っている人も多く、途中で宿泊所が嫌になってホテルを急遽予約した参加者も結構います。

 

私はこの当時住んでいた家は超ボロ屋の安アパートに住んでいたのでこの宿泊所が泊まっていられないと思うレベルではありませんでした。

 

寧ろちゃんとご飯も食べられるし部屋も極端に暑くも寒くもなくて指定の時間内なら練習も出来る、私にとっては十分良い環境だと思いました。

 

この時に参加して入賞した先輩が、「この宿泊所のレベルで耐えられないって、皆お金持ちでいいね~、違う土地に行けば違う環境に慣れる事も必要なのに…」と言っていました。

 

その人の言葉を聞いて、もしプロの演奏家になれば知らない土地に行く事はあるだろうし、どんな環境でも演奏できるメンタルの強さも必要だと思いました。

 

 

一次予選

課題をこなすという低レベルで戦っていたのでとにかく一次で丁寧に演奏する事が私の目標でした。

 

中にはリピツァーのエチュードをものすごいテンポの速さで弾く人もいて、器用な人が沢山いると思い自分との差に絶望しました。

 

宿泊所や練習室から聞こえてくる他の人の音が皆上手で凄いなと思いながら、夏休み頑張ったつもりでも自分が他の人の様に弾けていない事に凹みました。

 

 

自分の本番では緊張は少ししたのですが、リピツァーの課題の一曲を除くと大体普段と同じように弾けたと思っています。

 

リピツァーの課題の一曲だけ終盤で全く違う音を弾いてしまって違う音を弾いたまま終わるという何とも締まりのない失敗を犯しました。

 

後から講評を聞く事が出来たのですが、リピツァーやシヴォリの課題は丁寧に弾いていて良かったと審査員の方に言ってもらえ、弾き直しや些細な失敗よりも演奏全体で評価しているので間違いは大して減点にならないと聞きました。

 

 

一次の結果発表は夜中の12時を過ぎて行われ、私は疲れていたので一度休んでから結果を聞こうと思い寝てしまい、次に起きたのが夜中の3時くらいで、完全に聞き逃したと思いました。

 

携帯を見ると知らない人からメッセージがあり、それは公式伴奏者から一次に合格したので次の伴奏合わせの時間帯とホールリハの予定に関しての連絡でした。

 

 

二次予選

皆上手だしレベル高いから一次で落ちるだろうなと思っていたのでとにかく一次の曲を丁寧に練習する事に気を取られていました。

 

なので二次の曲は演奏するのが精いっぱいの状態で、まだまだ力不足を感じる状態で本番に挑むこととなってしまいました

 

二次でも相変わらず失敗をしましたが、失敗したと思った曲の方が審査員からは良い評価を講評で聞いたので、失敗をしまくると話は別ですが、やはり部分的な失敗というのは聴いている側からすると些細な事でしかないのかもしれません。

 

本選に進むことはなかったのですが、一次二次の課題を弾くことが出来、世界中から来た他の参加者の演奏が聴けた事は私にとって糧となったと思います。

 

 

審査員の方に私の先生を知っている人がいたり、参加者の中で同じ学校の出身だったり同じ門下の人だったり、色々な出会いもあり、こうして輪が広がっていく素敵な機会でもありました。

 

 

本選

本選に残らずともせっかく参加したので本選を聴いてから帰る事にしました。

 

イタリア国内に住んでいるので帰りの電車の心配のそこまでする必要がなく、帰りたいときに帰れるって素晴らしいと思いました。

 

本選に残った方からリハの予定を聞いて、リハの様子も少し見ていました。

 

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少し時間があったのでゴリツィアからそう遠くないトリエステまで観光をしたり、少しだけゴリツィアの街を見たりしました。

 

コンクールを聴いた上で結果を知ると審査員がどの様に評価しているのかが何となくわかります。

 

 

最後に

元々イタリアに来る時からソロのコンクールは特に目指しておらず、オーケストラを目標としていたのですが、先生が、せっかくここまでやってるなら一つくらい大きなコンクールに挑戦しなさいと後押ししてくれました。

 

こうしてソロをじっくり練習した事は、オーケストラを弾く時にも力になってくれるしどんな結果であれしっかり勉強する機会があった事が私にとっては非常にありがたかったです。

 

コンクールを勉強するチャンスと捉えて頑張れるのならどんな結果でも参加する価値は十分にあるのではないかと思います。

 

 

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