楽器の調整を頻繁にする事=良い事なのか?
楽器の調整は普段、日本に帰国するタイミングでお世話になってきた楽器屋さんに行くようにしています。
ただ、このコロナの影響で日本に帰れない今、トリノの弦楽器職人さんの工房に数年ぶりにお世話になる事になりました。
その工房の職人ご夫婦の奥さんが日本人という事もあってお話をする機会があり、併せてその時に話した事のいくつか書いていきます。
お世話になった職人夫婦
これまでにも一度だけ今回お世話になったトリノの楽器職人さんにお願いした事がありました。
工房はフランチェスコ・ピローニさんという方の工房で、夫婦共に楽器職人で、音楽院やオーケストラの人の楽器の調整も数多くこなしています。
前回お世話になったのは3年前の話で、それも弓の毛替えなので特に話をしたわけでもなかったのでほぼ絡みがない感じでした。
そのうちお世話になるかな、と思いながらも、日本の楽器屋さんに行く事や弦楽器職人の聖地であるクレモナにもよく行っていたので、そこまでトリノの工房に足を運ぶ事もなく今に至ったわけです。
お世話になったフランチェスコさんの工房は3年前、代表者である旦那さんとやり取りをしただけだったので奥さんの事については風の噂でしか聞いた事がありませんでした。
何故、奥さんの噂を聞いたのかというと、学校の先生や友達が、奥さんも旦那さんと同じく弦楽器職人で、それに加えて日本人の方だと、私が日本人だからその情報を教えてくれていたのです。
いつかは会えるだろうと思っていたら4年も経っていて、今回工房に行った時に奥さんに初めて会う事となりました。
奥さんも私の事を他の音楽家から聞いていたそうで、狭い世界です。
久しぶりの調整
日本に帰るタイミングでいつもお世話になっている楽器屋さんに持っていく様にしているのですが、今回コロナで日本に戻れない事や私の今使っている弓の製作者のいるクレモナは約2時間、電車を乗り継いで行く場所に加え感染者も多い地域なのでわざわざ行くのが躊躇われました。
日本に帰って楽器屋さんに楽器を見て貰った時は「この楽器の状態は良くない。緊急で調整しないと」と言われ、結局自分の思っていた調整よりも多くの事をして貰いました。
前回の事があるのでフランチェスコさんにも色々と言われるのかと思いきや、「そこまで問題ないと思うよ。弾いてて何か違和感を感じる様なら変えるべきだけどそうでないなら無理にいじらない方がいい」とのことでした。
楽器屋さんも商売なので、人によっては修理や調整を強く進める職人さんもいます。
ただ、私の経験上、調整をして物凄く良くなったと感じた事は残念ながらほぼないです。
必要に迫られて行った時だけ少し良くなったかなという感じで、楽器屋さんに勧められて調整した時は悪く感じる事はあっても良くなったと感じた事はありません。
フランチェスコさんの奥さんと話した時も「楽器を弾いている人は自分で違和感を感じる事ができる人が殆どなので職人側があれこれ口を出す事が良いという訳ではない」と言っていました。
この辺りは確かに職人さんによって凄く意見が分かれます。
次の項目等で私の意見を書きますが、必ずしも私の意見が合っていると思いませんし誰かに自分の意見を押し付けるつもりはありません。
ただ、楽器に対して神経質になりすぎてもどうなのかな、という話です。
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奥さんと会った話
フランチェスコさんの奥さんと工房で話した後日、改めてお茶をしながらお話する機会がありました。
奥さんが日本人なのでやはり他の音楽家から日本人である私の話をよく聞かされていたとのことでした。
この職人夫婦の考え方は先程の項目でも書いた通り、調整は最低限で楽器を触る事で突然良くなるという事をあまり信じていません。
彼らのお客さんの中には物凄く調整をしたがる人がいたり、調整をする事で音が格段に良くなる魔法の様な事ができると信じている人もいると話していました。
職人さんの中には「私は楽器が最も良い音で鳴る調整方法を行っているから、私が調整すれば楽器が変わりますよ」という人もいますが、どちらかというと私も奥さん寄りの考えで、調整に夢を見ないタイプです。
しいて言えば、極端に楽器の健康状態が悪くて良くなったなら音は変わると思います。
それでも悪い環境下に置かれた楽器、長い間弾かれていない楽器を調整してすぐに納得する音が出るかというと、そこからまた自分の手に馴染むように弾いていかなければ良くなったと感じる事は出来ないと思います。
毎日弾いてきて楽器にとって悪い環境の中に放置するような事をしていない人の楽器はよっぽどの事故がない限り急に悪くなりませんし、逆も然りで急に良くなるようなミラクルも起こりません。
楽器に対する見解
ストラディヴァリやグアルネリの様な一流と呼ばれる楽器だから良い音が出るかというとそうでもないと思います。
やはり一般的に価値の高い楽器というのは確かに弾き込んでいけば音色の幅が広がっていきます。
ただ、それも自分が手に馴染むように弾き込んでいく事や自分の腕ありきの話です。
楽器が悪いから上手く弾けないというのは何の言い訳にもなりません。
小学生高学年だけれど身体の小さい子が有名な製作者でもない数十万円の分数楽器で、フルサイズの、中には数千万も厭わない高価な楽器を持っている参加者がいるジュニアの国際コンクールで入賞した話も聞いた事があります。
それを聞いてしまうと本当に楽器は自分の演奏の腕を上げてはくれないと思う反面、高価でない楽器だったとしても自分の腕をしっかり磨けば良い演奏ができると思う訳です。
楽器の調整や良い楽器を求める事はやろうとすればいくらでもできますが、やりすぎて何が良いかわからなくなったという人もいたと職人さんから聞きます。
良い楽器、自分に合った楽器に巡り合えることが良いに越したことはありませんが、演奏する側が楽器に拘るのはほどほどにした方がいいのかもしれません。
最後に
先生が生徒に楽器を買わせる、先生が選ぶなんてことがあって、結局それが自分の納得いかないもので後悔したりトラブルになる事もあります。
日本では何度か聞いた話で、こっちではどうかなと思いましたがどうやらイタリアでも先生が懇意にしている職人さんや楽器商の楽器を生徒に勧める事もよくある話だそうです。
そこで予算に合った、自分にとって良い楽器に巡り合えたのなら良いのですがそうでなければ買わない方がいいと思います。
生徒さんに楽器選びについて質問される事がありますが、助言は出来るけれど、最終的に決めるのは誰の意見でもなく、自分の感覚を大切にして欲しいと言う様にしています。
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