音楽院の試験の話~実技とその他の試験~
去年の夏に私は音楽院を終えましたが、終えるまでの3年間は色々と大変でした。
今回は音楽院の実技関係からその他の試験まで簡単に紹介していきます。
履修登録
私の通っていたBiennio(2年コース)の履修登録は、1年目と2年目の両方を最初の履修登録時に登録します。
なので1年目に何の科目を取って、2年目に単位数に合わせた残りの科目を選んでいきます。
とはいえ、後から1年目に取れなかったものを2年目に回すことも可能なので私は1年目に出来なかった事を2年目に、2年目に出来なかったものを3年目に回して何とか卒業しました。
実技系科目には
この科目は必須で、それに加えてマスタークラス等臨時開講の授業にも単位が付きます。
私は公開レッスンを受けた時に単位を貰った事に加え、トリノ王立劇場で演奏した事を学長に話した事がきっかけか、自分の単位取得が確認できるサイトである時確認したらその時の演奏会を単位として扱われていました。
存在していたはずの授業が勝手に消されてそもそも単位が取れなくなった事があったので、この単位がなかったら私は更に他の授業を取らなければいけなくなっていた所だったので助かりました。
中には演奏会を試験扱いしたり単位認定する事があるので、それはなかなかいい制度だと思っています。
実技以外の授業だと
- 音楽史
- 楽曲分析
- 語学
この3つですが、1年目に必ずdebito(単位認定はないけれど必須)の音楽史を1つ、楽理を1つ取らなければいけません。
試験を受けなければいけないのに単位には加算されないうえに、1年目のうちに試験をパス出来ないと退学になるという非常に厳しいルールがあります。
因みに私は楽理は一発合格したものの、音楽史のdebitoの授業を一度も受けなかったので試験は2度落ちました。
当時はイタリア語のレベルが今よりも酷かったので、2年目に上がる直前に先生から勉強するように言われた本を丸暗記しました。
それをそのままテスト用紙に書き写して合格を貰いました。
それに加えて単位認定のある音楽史を3つ、楽曲分析を1つ、語学を1つまたは2つ、沢山ある音楽史の授業から選びます。(私の時はこんな感じの単位配分でしたがこれに限りません)
選んだ授業に授業回数の3分の2以上出席する必要があり、それをクリアすると試験を受けることが出来ます。
私はいくつかの授業はぎりぎりの出席で、先生に多めに見て貰ったものもあります。
試験のシステム
試験期間は大体、2~3月と6月~7月に行われます。
授業は前期が11月から2月、後期が3月から6月位になり、その中に試験期間も入るので、実際授業がある期間はそこまで長くないです。
ただ、試験期間でも実技関係のレッスンは行われていたりするので実技系の授業の方が自然と回数が多くなります。
そして、試験は基本的に30点満点で採点されます。
18点が合格ラインで、それ以下だと再試になります。
ソロや室内楽、オケスタの試験等の実技系はほぼすべて30点満点を取っていたのですが、何せ言語が全然出来なかったので、他の教科の点数は酷かったです。
恥を忍んで点数を言えば30点満点中こんな感じでした
語学 22点
楽曲分析 25点
音楽史 24、26、27点
決して難しい試験ではないので30点満点を取ることも不可能ではないでしょう。
試験前は毎日授業でやった本を読んだり例題を解いたりしたものの、ぎりぎり及第点といったところです。
それでも無事に最後の音楽史の試験をパスした時の喜びはとても大きかったです。
実技試験
以前に実技の入試の話をしたので、入試に関しては下のリンクを読んでいただければと思います。
単位としては、室内楽(弦楽)が2つ、室内楽(ピアノや管楽器などとのアンサンブル)を2つ、オーケストラスタディを最低1つ、オーケストラとソロの単位を2年分、が通常の単位取得の配分です。
室内楽の取得単位を減らして他の科目に回すことも可能ですが、大抵この様な感じになると思います。
室内楽
室内楽は先生が学生たちのソロの成績を見てメンバーを組んでくれます。
試験は話し合う必要がありますが、3月にしたい、6月にしたいなど希望の試験時期に合わせてメンバーも組んでくれることもあります。
試験の時は全曲演奏が基本(例えばベートーヴェンの弦楽四重奏を試験で弾くなら全楽章を演奏するのが基本)なので、1グループ40分が持ち時間という事も普通です。
特に室内楽は演奏会を試験として扱う事がよくあり、何度か室内楽で学内の演奏会に出ましたが試験扱いとして単位を貰っていました。
オーケストラ
オーケストラの場合は出席数で決められ、可か不可の二つでしか認定されないので単位はありますが点数はありません。
オーケストラスタディの方は、試験があるので点数がつけられます。
オケスタの授業はヴァイオリンだとグループレッスンで、月に一度スカラ座のコンマスが来てよくあるオケスタの曲を説明しながら皆で練習していくという感じで行われます。
試験は10曲弱準備します
私が用意したのは確かこんな感じだった気がします。
ソロの試験
ソロは試験が行われる期間までは基本的に週1回1時間レッスンです。
試験の他に、毎年どの門下もsaggio(発表会)を学内の小ホールまたは大ホールで行います。
それ以外にも試験前に試奏会をしてお互いの試験曲を聴き合って感想を言い合う等もクラスによってはあります。
試験は学年によって異なりますが、結構量が多いので前々から先生と相談して試験曲と試験時期を決めていく必要があります。
試験内容は以前の記事にも紹介したのでご参照頂けたらと思います。
学内選出
学校で頻繁に演奏会が行われていますが、選出方法はある程度楽器や門下でバランスが均等になるように考慮して組まれます。
成績だけで決める訳ではないので、年によってこの楽器、一部の門下生ばかりが出るといった事がなくなります。
声楽だと○○先生の門下ばかり、室内楽は弦楽四重奏ばかり…という風にはならない様に曲や編成、楽器や門下等をみてバランスよくプログラムが組まれます。
今まで通っていた音高や音大は成績で出演できるシステムだったので、誰にでも演奏できるチャンスがあるのも良い事ではないかなと思います。
オケと共演するためのソリストの選出が毎年あるのですが、これに限ってはオーディションが行われます。
数人ソリストが選ばれ、その中で最も優秀な人がトリノ交響楽団との演奏会のソリストとして演奏出来ます。
私はこのオーディションを受けてトリノ響とヴァイオリン協奏曲を演奏しています。
その他にも音楽院と他の企画団体等が提携して演奏会を行う場合もあります。
最近だとバッハやモーツァルトのプログラムを中心とした演奏会企画や、unione musicaleという演奏会企画の一部に音楽院の学生の演奏会があったり、王宮や教会の場所提供によって行われる無料演奏会等がありました。
そういった演奏のチャンスが学校にいるとあるので日本にいる時よりも人前で演奏する機会は自然と多くなります。
最後に
以前に音楽院の先生が「日本の音大とそもそも生徒の育て方に対する考え方が違う。イタリアの音楽院は演奏会の出来る音楽家を育てるのであって、コンクールで賞が取れる演奏家や上手なヴァイオリニストを育てるのが目的ではない。」と言っていたことがあります。
そういった意味で、多くのレパートリーを弾かせたり演奏会に立たせる機会が多いというのは頷けることだと思います。
日本の音大が劣っているとも全く思わないですし、むしろ技術や知識に対する教育レベルの高さはやはり日本は素晴らしいと思います。
どちらの方針も学ぶとなかなか面白いものです。
質問、気になる事がございましたらお問い合わせください。また、レッスンも行っておりますのでご興味がありましたらご連絡ください。